東京家庭裁判所 平成8年(少)4472号 決定 1997年1月07日
少年 T・T(昭和53.5.11生)
主文
この事件については、少年を保護処分に付さない。
理由
本件送致事実は、「少年は、平成8年7月20日ころの午後8時ころ、東京都練馬区○○×丁目××番×号○○ビル前路上において、氏名不詳者が遺留したA子所有の自転車1台(時価2000円相当)を発見拾得したが、警察署長に届けるなど正規の手続きをとらず、自己の用に供するため、これを欲しいままにその場から持ち去り、もって横領したものである。」というものである。
ところで、少年は、同年12月12日に行われた家庭裁判所調査官による調査期日において、おおむね次のように述べ、送致事実を否認するに至った。すなわち、「自分は、平成8年7月ころに自己所有の自転車を盗まれた。それを知った友人から使っていない自転車があるのであげるといわれ、同月20日ころ本件自転車を受け取って使用を始めた。ところが、同年8月9日にその自転車を使用中警察官に職務質問され、自転車の持ち主を聞かれたので、友人からもらったものであると説明したが信じてもらえず、交番まで連れていかれ、警察で所有者を調べた結果友人の名義ではないことを知った。そこで、友人の名前を出すとその友人に迷惑がかかると思い、また、本件はそれほど重い罪にならないとも聞いたので、自分が盗んだことにしようと考え、とっさにその旨供述してしまったものである。」というのである。また、少年の母親も、「当時、少年の夜遊びも多く、少年がやったことだと思って、罰として坊主頭にさせ反省を求めていた。ところが、夏休みに、少年を実家にアルバイトにやったところ、そこで坊主頭にした理由を聞かれ、少年が上記のようないきさつを話したとかで、伯母から連絡が入った。私は、どうしたらよいかも分からず、書面の照会程度で終わると聞いていたのでそのままでも仕方がないとも思っていた。しかしながら今回裁判所に呼ばれることになり、いい加減なことで済ませるわけにはいかないと考え、少年とも相談して事実を話そうということになった。」と述べている。
上記調査結果の陳述内容、及び本件捜査の端緒を報告した、捜査報告書にも、当初少年が本件自転車は「友達のB子(編注原文は片仮名記載)から貰ったものです」と述べていたとの記載が存したことなどから、当裁判所は、直ちに審判を開始し、事実関係を確認したところ、少年は、上記と同様の陳述をなし、また、「B子(編注原文は片仮名記載)」は、「B子(編注原文は漢字記載)」といい、警察に捕まった後、同女に経過を話したところ、自転車は同女の弟がどこかから入手したものだと分かった、同女は警察に行って説明すると言ってくれたが、同女の弟にまで迷惑がかかってはと考え行かなくていいと言った。しかしながら、事実関係を明らかにするため同女の取調べを必要とするなら調べることに異存はない。もっとも、同女の電話番号は分かるが住所については○△町か○□町であることは間違いないものの詳しい番地は分からない旨供述するに至った。
上記のような少年の供述内容、少年が捜査当初から本件自転車をB子から貰ったものである旨弁解していたことが証拠化されていること、少年とB子との身分関係、本件事案の内容等に照らし、当裁判所は、直接人証を調べず検察官に対し補充捜査を依頼したとしても特段の弊害は認められないと判断し、送致検察官に対し、少年の弁解内容を伝えるとともに、捜査当初の状況、B子の居住関係、少年の弁解に対する同女の対応等について明らかにするよう求めたところ、B子及び同女の弟C各作成の上申書及び同月13日付捜査報告書(2通)が追送されるに至ったが、追送されたこれらの書証によっても、ほぼ少年の弁解のとおりの事実経過を認めることができる。
以上のとおりであり、少年には非行事実が認められず、保護処分に付することができないから、少年法23条2項により、主文のとおり決定する。
(裁判官 古田浩)